〜薬剤師~金子 昌弘〜

抗血栓薬編

血液は体重の約8%を占めていて、赤血球、白血球、血小板、血漿から成り立っています。赤血球は酸素の運搬を行い、白血球は細菌やウイルスを貪食して感染症を改善し、免疫機能を調整します。血小板は出血を抑える作用があり、血漿は物質の運搬を行い、血液凝固因子、アルブミン、グロブリンなど体に重要な働きを行う様々な蛋白質を含みます。

血液は体にとても大切な働きを行いますが、液状のため血管が損傷をしてしまうと当然ですが出血します。そのため出血時には血小板と血液凝固因子が作用して出血を抑えます。出血に対してはとても大切な働きを行いますが、病気により血管内で血液が凝固しやすくなる場合があります。固まりやすくなった血液が血管を塞いでしまうと、その先にある臓器の壊死につながります。例えば心筋梗塞や脳梗塞などが代表的なものになります。

抗血栓薬は、血栓を予防するためにはとても大切な薬剤ですが、出血しやすくなるリスクもある薬剤です。お薬を有効に安全に使用していただくために、今回は「抗血栓薬」を紹介したいと思います。

止血について

血管の損傷などがあると血小板の凝集が行われ、傷口をふさぎます。その後血漿中の血液凝固因子が働き、プロトロンビンからトロンビンが生成され、トロンビンの働きによりフィブリノゲンからフィブリンが形成されて止血を行います。

抗血栓薬とは

出血以外で血小板の凝集反応が亢進したり、血漿中の凝固因子の働きが高まり血液が凝固しやすくなると、血栓が形成される危険性があるので、抗血栓薬を使用して治療を行います。治療薬を大別すると、血小板の作用を抑える抗血小板薬と、凝固因子の働きを阻害する抗凝固薬に分けられます。(血栓を溶解する血栓溶解薬もありますが注射薬のため今回割愛させていただきます)

抗血小板薬は各薬剤により、血小板凝集を抑制する働き方が異なります。また作用時間も比較的短時間なものや、血小板の寿命(約7~10日)内は効果が持続するもの、さらに14日間持続するものもあります。

抗凝固薬は血液凝固因子の初期段階とプロトロンビンを抑えるもの(ワルファリン)、トロンビンを抑えるもの(トロンビン阻害薬:ダビガトラン)、血液凝固経路の収束点になるXaを抑えて、トロンビンの産生を抑える薬剤(Xa阻害薬:リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン)があります。トロンビン阻害薬とXa阻害薬は総称してNOAC(新規経口抗凝固薬)と呼びます。

抗血栓薬の分類

抗血小板薬(主な商品名) 抗凝固薬(主な商品名)
アスピリン(バイアスピリン)、クロピドグレル(プラビックス)、シロスタゾール(プレタールOD)、ジピリダモール(ペルサンチン)、イコサペント酸(エパデール)、リマプロスト(オパルモン・プロレナール)、サルポグレラート(アンプラーグ)、ベラプロスト(ドルナー・プロサイリン)、プラスグレル(エフィエント)、チクロピジン(パナルジン)、クロピドグレル・アスピリン配合剤(コンプラビン) ワルファリン(ワーファリン)、ダビガトラン(プラザキサ)、リバーロキサバン(イグザレルト)、アピキサバン(エリキュース)、エドキサバン(リクシアナ)

他院・歯科医院・内視鏡検査などの前に必ず報告してください

出血した際には、服用していない場合と比較して、出血量が多くなる危険性があります。手術などの場合には、出血リスクを回避するために一定期間の休薬を行うこともあります。手術前や内視鏡検査前には、手術説明書などを用いて使用薬剤の確認を行いまが、報告漏れを防ぐため使用薬剤をお薬手帳などで伝えることが大切です。

休薬期間の指示は、必ず処方された医師にも確認を!

以前は薬剤ごとに一定の休薬期間を定めていたことがありました。最近では休薬中の血栓症を回避することを重視して、抜歯は基本的に休薬なし、通常の内視鏡ならば休薬なし、ポリープ切除などの場合はに血栓症の危険性を考慮して一時的に作用時間の短い薬への変更や、最小限の休薬により対処するなど、状況に応じたガイドラインが日本消化器内視鏡学会により作成されました。ガイドラインに基づき検査や手術の程度により、服用したまま行うことが多くなりました。

もしも休薬の説明を受けた際には抗血栓薬を処方している医師にも必ず確認するようにしてください。

血液サラサラの薬飲んでいるので、納豆は食べてはいけないの?

ワルファリン(ワーファリン)を服用している場合には、納豆は食べてはいけません。ワルファリン(ワーファリン)の働きは、ビタミンK作用に拮抗してビタミンK依存性血液凝固因子の生合成を抑制します。納豆はビタミンKの含有量が多く、納豆菌により腸管内で新たにビタミンKの産生をすることが考えられるので、ワルファリン(ワーファリン)の作用を低下させてしまう危険性があるので食べてはいけません。しかし他の抗血栓薬の作用は、ビタミンK作用には関係していないので影響を受けません。「血液サラサラの薬を飲んでいるので、納豆は好きだけど食べないで我慢していますよ」と伺うことがあります。テレビ・雑誌などで「薬と食品の注意点」で紹介されることがある、
血液サラサラにするワルファリン(ワーファリン)は納豆ダメ!=血液サラサラにする薬は納豆ダメ?
と解釈されてしまったようです。もしも誤解されていて納豆を控えている場合は、薬剤師に確認するようにしてください。

ワルファリン(ワーファリン)は特に相互作用の注意が必要です!

ワルファリン(ワーファリン)は薬の効果を数値にして確認することができ、適切な管理のもとで抗血栓療法を行うことができます。ただし使用上の注意も多い薬剤です。

納豆以外にも、青汁、クロレラ(サプリメント)は避けなければなりません。またビタミンKを比較的多く含む緑黄色野菜などの大量摂取も控えます。さらに他剤の影響を受けやすい薬剤です。例えばビタミンKを含む製剤や解熱鎮痛剤、抗生物質など比較的処方されやすい薬剤で、効果の増強や減弱をすることがあります。ワルファリン(ワーファリン)を服用の方は他医療機関受診時や、OTC(一般用医薬品)購入の際には必ず伝えるようにしてください。不明なことがありましたら薬剤師に確認するようにしてください。

薬の注意点など、不明な際は薬剤師に確認を

抗血栓薬は心筋梗塞や脳梗塞など重篤な病気に対して使用する薬剤ですが、出血というリスクを併せ持っている薬です。正しく服用していくことが何よりも大切ですが、もし服用を忘れてしまったときの対処法には注意が特に必要です。

NOAC(新規経口抗凝固薬)では服用忘れにより、次回服用までの間の効果が期待できなくなるものもあります。基本的には気付いたらすぐに服用しますが、次回服用までの時間を適切に空けることが必要な薬剤です。薬剤の種類により対処方法が異なりますので、薬剤師に確認するようにしてください。

安全に薬を使用していただくために、薬の使用法で不明な点がありましたら、まず薬剤師に確認して適切に使用するようにしましょう。