ビタミンDについて、良く知られていることは、ビタミンDは、カルシウムや同じビタミンであるビタミンKと共に骨の健康維持に重要な栄養素である。

ビタミンDは、20世紀初期に摂取量が不足することで、骨の形成が不全となる“くる病”等が発症する欠乏症が良く知られており、ビタミンのひとつとして分類される理由となっている。第2次世界大戦終了後に、特発性の高カルシウム血症とそれに関連する動脈弁上部狭窄の発症がビタミンDの食品への強化に原因があることがわかり、ビタミンD強化食品が市場になくなる傾向になった。そのような状況下で都会でも“くる病”の発症が増えてきた。

大用量のビタミンDは、確かに有害作用があり、頭痛、吐き気、食欲不振、便秘、体重低下状態の誘発や高カルシウム血症、腎石灰沈着症、大動脈石灰症等の発症原因となる。このようなリスクは現在でも潜在的にあり、ビタミンDの推奨摂取量の増加に対しては、皮膚で合成されるビタミンD量と経口摂取されるビタミンDを合わせた総ビタミンD量で毒性がないことが重要になる。

ごく最近、ビタミンD3を250μg/日(10,000U/日)、6カ月間の摂取でも安全である報告が公表された。

一方、ビタミンDは、骨の健康維持・増進に対する有益な作用に加えて、核内受容体のホルモン様活性化作用による免疫系、細胞の増殖および分化、多発性硬化症、エネルギー代謝、加齢およびがん予防への有益な作用を示す報告が増えている。このように健康維持・疾病発症予防に有益であるビタミンDおよびビタミンD活性体類縁物質は、非常に興味深いものがある。

近年、太陽の暴露による酸化的傷害に関する行き過ぎた紫外線の暴露を防ぐという生活習慣によって、ビタミンDの体内状態が悪くなり、1日あたり2,000 IUのビタミンDを投与したところタイプⅠ糖尿病が88%低減したという新生児でのデータがフィンランドから報告された。

現在のビタミンDの推奨量では、日光にあたる機会の少ないヒト、妊婦・授乳婦、50歳以上の成人においては、1日に1,000 – 2,000 IUのビタミンD摂取を推奨する専門家が増えており、米国の医薬品研究所(IOM)をはじめ、世界中でビタミンDの1日推奨摂取量を増加させる動きが起こっている。

ビタミンDを含有する食品は、シイタケや小魚といったように、日常的には摂取機会の少ない食品が中心であることから、サプリメントやOTCビタミン剤から意識して摂ることをこころがけることが、健康維持・増進に結びつくと思われる。

末木一夫

(薬学修士、日本ビタミン学会評議委員およびトピックス担当委員。国際栄養食品協会 専務理事および科学委員会委員長、元健康日本21推進フォーラム事務局長、元お茶の水女子大・明治大非常勤講師)