4月1日から、更新された「食事摂取基準」<5年毎の定期的な更新>が、学校給食、介護施設の食事、個人の望ましい栄養素の摂取量等の参考資料として使用される。

医薬品の世界では、あまり馴染みがない用語であると思われるが、身体の正常な栄養状態を維持し、健康増進・維持に必要な栄養素の1日摂取量・エネルギー量等が年代別に記載されている。

我が国でもようやく栄養状態が、疾病の発症予防あるいは治療・治癒に重要な役割をもつことが、医療界でも認識が高まり、実際に応用される事例が急激に増加している。

この「改正食事摂取基準2015年版」において、据え置きにされた内容のなかで、見過ごせない項目がある。すなわち、ビタミンDの目安量が、成人から高齢者まで一律5.5μg/日に据え置かれたことである。一方、米国やカナダにおけるビタミンDの推奨量は、成人で15μg/日、70歳以上で20μg/日となっている。中国でも成人では10μg/日、65歳以上で15μg/日となっている。また、ビタミンDの研究専門家のなかでは、ビタミンDの摂取推奨量を25~50μgと提言している。

カルシウムが、不足すると骨の脆弱化につながるが、ビタミンDが不足すると腸からのカルシウムの吸収効率が低下し、カルシウムと共に骨の石灰化に関与するハイドロキシアパタイトを構成するリンも不足し、骨粗しょう症を発症する。

ビタミンDの充足指標としては、血中25(OH)ビタミンD値であり、20ng/ml以上が充足値と米国では定められています。また、日本人を対象としたビタミンD負荷試験の結果からは、28ng/ml以上が、ビタミンDが不足によるPTH分泌亢進を来さない値とされています。すなわち、PTH(副甲状腺ホルモン)上昇による低骨密度、下肢筋力の衰え、結果として転倒しやすくなり、骨折を惹起します。さらに、一般住民を対象とした調査研究において、25ng/ml以下で、骨折が有意に増加するという報告があります。いずれにしても、転倒・骨折のリスクを減らすには、ビタミンDの目安量が5.5μg/日では、少なすぎるということは、明らかでしょう。ちなみに、5μg/日のビタミンD摂取量では、血中25(OH)ビタミンD値が20ng/ml以上になったヒトは、約40%という状態でした。

高齢化社会がすすむ我が国において、健康長寿を健康政策の柱として、種々の疾病発症予防策が提唱されているが、高齢時の骨折・転倒を考慮することは、非常に重要であることは論を待たない。OTCビタミン剤あるいはビタミン配合サプリメントから、ビタミンDの適切な量を摂取することが必要です。なお、ビタミンDの耐容上限量<安全量>は、100μg/日です。

末木一夫

(薬学修士、日本ビタミン学会評議委員およびトピックス担当委員。国際栄養食品協会 専務理事および科学委員会委員長、元健康日本21推進フォーラム事務局長、元お茶の水女子大・明治大非常勤講師)