トップページ > 薬と上手に付き合うための基礎知識 > 薬と上手に付き合うための基礎知識(23) 〜薬剤師~金子 昌弘〜 インフルエンザ治療薬 インフルエンザは例年11月下旬頃から始まり、12月中旬頃に流行期に入ります。1月から3月がピークとなり、その後患者数は減少してきます。症状は38℃以上の高熱と倦怠感、筋肉痛や関節痛などの全身症状が起こります。原因となるインフルエンザウイルスにはA型、B型、C型があり、抗原性の違いから分類されています。 咳やくしゃみなどによる飛沫物による飛沫感染、飛沫物が付着したものを手などで触れて取り入れてしまう接触感染により、感染が広がります。ウイルスが体内に侵入してから症状が出るまで1~2日の潜伏期間があります。インフルエンザに感染した場合、他の人にうつしてしまう可能性は、発症1日前から発症後5~7日間と言われているので、気付かないで感染してしまう可能性があります。 インフルエンザは高齢者では重症化することもあり、小児ではまれにインフルエンザ脳症を起こすこともあり注意していくことが大事です。今回はインフルエンザ治療薬について紹介します。 インフルエンザ治療薬の種類 ノイラミニダーゼ阻害薬が主流になります。インフルエンザウイルスは、細胞に侵入した後に増殖するためのRNAという遺伝情報を放出して、細胞の核内で遺伝子合成が行われます。遺伝子合成後に細胞内で増殖したウイルスは別の細胞へと移動してさらに増殖を繰り返します。 細胞内で増殖したインフルエンザウイルスは、細胞の外に遊離するためにノイラミニダーゼというタンパク質により、ウイルスを細胞から切り離して別の細胞に移動します。ノイラミニダーゼ阻害薬はノイラミニダーゼを阻害することで細胞からウイルスの遊離を抑えて、ウイルスの新たな移動を抑えて増殖を抑えます。いわゆる細胞に封じ込めるような治療となります。 また平成30年からキャップ依存性エンドヌクレアーゼ活性を選択的に阻害する薬が使用されるようになりました。キャップ依存性エンドヌクレアーゼは、感染細胞内のmRNA前駆体を特異的に切断する酵素で、ウイルスmRNA合成に必要なRNA断片を生成します。キャップ依存性エンドヌクレアーゼ活性を阻害することで、ウイルスのmRNAの合成は阻害されてウイルスの増殖を抑制します。 いずれの薬もウイルスを死滅させる薬ではないので、増殖がピークに達する前に使用することが必要で、可能な限り速やかに使用を開始することが望まれ、発症後48時間以内に使用します。 抗インフルエンザ治療薬の分類 一般名 作用機序 剤型 投与回数 オセルタミビル ノイラミニダーゼ阻害 内服 1日2回/5日間 ザナミビル ノイラミニダーゼ阻害 吸入 1日2回/5日間 ラニナミビル ノイラミニダーゼ阻害 吸入(粉末・ネブライザー) 単回 ペラミビル ノイラミニダーゼ阻害 静注 15分以上かけて単回 バロキサビル キャップ依存性エンドヌクレアーゼ活性阻害 内服 単回 服用方法と注意点 オセルタミビルおよびバロキサビルは内服、ザナミビルとラニナミビルは吸入薬、ペラミビルは点滴静注で使用します。吐き気などの消化器症状が強い場合には吸入薬を、吸い込む力が弱い場合など正しく吸入できない場合には内服薬、内服や吸入することが困難な場合や、重症の場合では点滴静注を選択します。 ラニナミビルは単回吸入で使用できるので利便性に優れます。上手く吸うことができない幼児や小児、高齢者等に対してはネブライザーで使用する剤型があります。 ザナミビルは5日間吸入するために単回で使用するラニナミビルと異なり、吸入が上手くできなかった場合のリスクを回避することができます。 インフルエンザの症状は使用後に緩和してきますが、オセルタミビルおよびザナミビルは5日間使用していくことが必要です。また耐性ウイルスの発現を予防するために処方された薬は使い切ることが大事です。副作用を思わせる症状などが出た場合には医師に報告して指示を受けるようにしてください。 バロキサビルは平成30年から販売されました。単回服用で効果が得られるため、使用に対する患者さんの負担が少ないため、多くの医療機関で使用されました。ただしシーズン中から耐性問題が取り上げられ、今後の使用に関して取り決めを行うことも予想されます。 いずれの薬剤も速やかに使用することが大事です。異常行動に関しては、抗インフルエンザ薬の使用の有無や種類にかかわらず報告されています。異常行動は就学以降の小児・未成年者で報告があり、発熱から2日以内に発現することが多いので、発熱から少なくても2日間は就寝中も含め、小児や未成年が容易に住居外に飛び出さないように注意することが大切です。 薬の注意点など、不明な際は薬剤師に確認を 吸入薬をもらったが、インフルエンザの検査を鼻腔で行ったので、口から吸わないで鼻から吸うものだと思っていた患者さんがいます。抗インフルエンザ薬は医師の指示を守り適切に使用することが大切です。インフルエンザウイルスは増殖が非常に速く、ウイルス1個が24時間で約100万個になるといわれています。適切に速やかな使用をすることが必要です。単回使用の薬剤は速やかに使用するようにしてください。1日2回使用するオセルタミビルおよびザナミビルも初回の使用は速やかに使用して、2回目以降は規則的に使用します。 各薬剤の使用に関しては医師の指示を守り正しく使用してください。特に説明を受けていない場合には、オセルタミビルは薬を入れる袋(薬袋)に朝夕食後と記載していることが多いと思いますが、初回は食事に関係なく直ぐに服用します。午後に受診した場合には初回を直ぐに服用した後、2回目は3時間以上あけて使用することで効果が安定します。夕方からの使用の場合は2回目を使用するかどうか薬剤師に確認するようにしてください。ザナミビルも同様に初回は直ぐに吸入します。2回目の吸入は2時間以上あければ吸入は可能と報告がありますが、オセルタミビルと同じ3時間以上あければ2回目を使用できると考えます。2日目以降は朝と夕に定時的に使用することで薬の効果が安定します。医師からの指示を受けていない場合には参考にしてください。 安全に使用していただくために何か不明な点がありましたら、薬剤師に確認して適切に使用するようにしましょう。