〜薬剤師 青木 敏朗〜

はじめに

夏場は冷たいものの飲み過ぎやクーラーなどで胃腸の調子の悪くなる方も多いと思います。また気温が高いため食中毒も多く報告されており注意が必要です。夏場の胃腸の不調は様々な原因がありますが、重症化する可能性のある食中毒は注意しなければなりません。食中毒は原因を知ることで予防することができます。また適切な対処が必要です。今回は、その中で特に注意が必要な細菌性食中毒のお話です。

まず食中毒の原因は細菌性およびウイルス性の感染性のもの、自然毒、化学物質などに分けられます。

食中毒の分類

細菌性食中毒 感染型 腸炎ビブリオ サルモネラ、カンピロバクター
毒素型 黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌
その他 ウェルシュ菌 病原大腸菌
ウイルス性食中毒 ノロウイルス
その他のウイルス
化学性食中毒 ホルムアルデヒド等
自然毒食中毒 動物性自然毒 フグ毒 貝毒
植物性自然毒 毒キノコ 植物毒
その他 アレルギー性物質 ヒスタミン

細菌性食中毒

食中毒の中では最も発生頻度が高く、発症の仕方で感染型と毒素型に分類されます。

感染型

細菌が飲食物とともに摂取されて体内で増殖したり、食物内で増殖していた菌を摂取した場合に感染が起こります。

主症状は、悪心、嘔吐、腹痛、下痢、発熱などで、多くの場合は2~3日で軽快し1週間以内で回復します

全身症状が悪化した場合は重症になることもあります。

毒素型

物内で増殖していた菌が産生した毒素を食品とともに摂取して起こる食中毒で、主症状は、悪心、嘔吐、腹痛、下痢などですが、ボツリヌス菌では神経麻痺(ボツリヌス菌素)を起こすものもあり重症化します。

ウイルス性食中毒

カキの生食によるノロウイルスが有名です。感染力が高く、少量のウイルスからも感染します。ウイルスを含んだホコリなどから感染することもあります。

感染の多い時期は冬季(11月~2月)になります。

その他にはロタウイルス、アデノウイルス、アストロウイルスなどがありウイルス性胃腸炎とも言います。

化学性食中毒

終戦時のアルコール不足の際にメチルアルコール入りの酒類がでまわり問題になりました。

その他、農薬や器具や容器に使用される有害金属、ホルムアルデヒドなどがあります。最近は、外国食品の不許可添加物による中毒が増えてきています。

自然毒食中毒

動物性自然毒

フグ毒が有名ですが、有毒プランクトンの摂取で有毒化される貝毒(アサリなど)があります。

植物性自然毒

毒キノコやドクゼリなどが有名です。

ジャガイモの発芽部にもソラニンという物質が含まれ、毎年食中毒の報告があります。

○参照ホームページ(日本学校薬剤師会)

http://www.nichigakuyaku.org/modules/contents/index.php?content_id=107

アレルギー性物質(ヒスタミン)

不適切な温度管理でなどでヒスタミンが増殖した魚を摂取することにより起こるアレルギー様症状で、赤身魚で起こりやすいです。摂取してから1時間くらいで、顔のほてり(主 に口や耳たぶ)、頭痛、発疹、発熱などのアレルギー様症状が出てきます。

これは原因がわかれば抗ヒスタミン薬で治癒します。

*なお食中毒の関する詳しい情報は、厚生労働省のホームページ 「食中毒に関する情報」を参照ください

http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/index.html

なぜ夏場は、細菌性食中毒が増えるのか?

食中毒の原因は多岐に分かれますが、発生数のほとんどは細菌性食中毒(80%)、次にウイルス性(10%)のものです。

特に夏場で気をつけないといけないのは、気温や湿度が高くなると発生しやすくなる細菌性食中毒です。

たとえば夏場に多発する腸炎ビブリオは、35~37℃で増殖しやすくなります。腸炎ビブリオの発症菌量は数千万個以上といわれていますが、100gの魚や肉では2時間程度で発症菌量に達します。またその程度の菌量では外観やにおいに変化はありません。

胃酸は細菌やウイルスに対して1つの防御機能として働いていますが、夏場は冷たいものを摂り過ぎて胃腸が弱っており胃酸で細菌が死滅しにくくなります。

さらに暑さで睡眠不足になると、免疫力が落ちて発症しやすくなります。

細菌性食中毒の予防

予防で大切なのは

1.清潔に保つこと

食品への細菌の汚染を避けることです。食中毒を起す細菌は魚や肉、野菜などについており、特に夏場は時間の経過とともに菌量が増加します。

2.保存は低温(冷蔵)、食べる前には加熱

通常、細菌は5℃以下では増えにくいので、すぐに冷蔵庫に入れましょう。

また、ほとんどの細菌は加熱することで死滅しますので、食べる前には加熱することが大事です。

電子レンジは加熱むらができると殺菌はされませんので、途中でかき混ぜたりして加熱むらをなくしましょう。

3.調理後はすぐに食べる事

調理された食品でも、細菌が残っていれば菌量が増え感染しやすくなります。

調理後は、なるべく早く食べましょう。

細菌性食中毒の対処法

激しい下痢と吐き気が出た場合の緊急時の対処法は、まず脱水にならないようにすることです。脱水状態の水分摂取に関しては、当HPでもご照会している経口補水液が良いです。

当HP:http://www.fujiyaku.org/ygk/kagakusha_09.html#2

また吐き気があるときは無理に食事を摂ろうとしても、もどしてしまいますので落ち着くまで食事は摂らないほうが良いです。

一般薬でも強力な止瀉薬が出ていますが、下痢は、腸から有害なものを排泄する体の正常な反応なので、最初は止瀉薬で無理に下痢を止めず、乳酸菌を主とした整腸剤の服用程度にとどめてください。

夏場の胃腸の不調と食中毒を見分けるのは難しいです。

食中毒が疑われる場合は、早めに医療機関を受診しましょう。