トップページ > 漢方の相談室 > 2009~2013年 > 漢方の相談室~スミレ 『春の野に「スミレ」摘みにと来し我ぞ野を懐かしみ一夜寝にける』この一首は文学作品上「スミレ」が最初にでてきた歌で、万葉集の山部赤人の一首であり、『春の野に「スミレ」を摘もうと思ってきた私は、野に心を引かれて一夜野宿した』と解釈されています。また別の解釈に、『「スミレ」は女性のことで、懐かしんだのは草枕ではなく、女性の手枕あるいは膝枕ではないか』という説もあります。これらの他に、『赤人は、その名の通り高血圧のために倒れて一夜を明かした』という人もいます。 実はこの「スミレ」は現在の美しい花の「スミレ」ではないようで、食料としての「菫菜」のことで、この歌の場合も食料としての「セリ」ではないかともいわれています。 中国では「スミレ」のことを「紫花地丁」または「菫菫菜」と呼び、我が国では「スミレ」に「菫」の字を当てています。現在は野路スミレの全草を乾燥させたものを、生薬名で「紫花地丁」(シカジチョウ)と呼んで、漢方薬に使用しています。味は苦辛く、寒の性質を持ち、清熱解熱,消腫を目的に、よく使われています。たとえば、皮膚化膿症の瘰癧,下痢,結膜炎に用いられています。 紫花地丁の基原植物は、ノジスミレの他に、スミレ( Viola mandshurica)、コスミレ等のViola属です。民間薬でも、全草を『はれもの』に外用又は煎じて内服で用います。またHIV(エイズウイルス)を阻害するという報告もありました。 スミレとノジスミレの見分け方ですが、スミレは葉柄(葉のついた軸)に翼がありますが、ノジスミレにはほとんど見られません。また、ノジスミレの夏の葉は三角形で基部の両側が巻き上がります。咲くのが少しスミレの方が遅いいわれていますが、花の色はノジスミレの方が青みがかった紫色です。スミレの仲間は繁殖が旺盛で、花を咲かせて種子を作るのは普通ですが、花が咲いていないのに、いつの間にか種子を作っています。 『春風にノジスミレゆれる道のわき』(河童)4月になり、春の嵐が吹き荒れるなか蕩々としてつぼみを持つサクラばかりが注目される季節です。眼は上の方にばかりに行ってしまいがちです。たまには足元の可憐にひっそりと咲く花に、ほんの小さな美しさを感じるのも、この春ならではの体験ではないでしょうか。 |『漢方の相談室』一覧へ|もどる|次へ| ※これらの『おくすり相談事例』は薬剤師・鍼灸師の福島勇二先生が湘南朝日に連載したコラム『漢方の相談室』より転載したダイジェスト版です。