〜薬剤師 青木 敏朗〜

インフルエンザワクチンについて

インフルエンザワクチンは、人間の持っている生体防御機構の中でも高度な機能の免疫を利用して、接種することで感染をしないか、感染をしても軽症ですむようになります。

ワクチンとは

古くから伝染病にかかって生きのびると、同じ伝染病の再流行においては抵抗性を示すという事実は、古くから洋の東西において知られていました。

そして本格的に医療に応用されたのは18世紀末のJennerの種痘に始まると言われています。牛痘(ぎゅうとう)を人為的に接種しておくと、天然痘にかかりにくくなるというこの事象です。牛痘とは牛などに感染するウイルスでJennerは天然痘ウイルスとDNAが酷似している牛痘の膿を接種することで天然痘の流行の抑制に効果を発揮しました。これ以降、感染症に対して、免疫という考え方が発達してワクチンに応用されるようになりました。

感染症の原因となる細菌、ウイルス、あるいは細菌の産生する毒素の力を弱めたものをワクチンといいます。このワクチン接種により、身体は感染したときと同じ反応、すなわち免疫がつきます。これは、細菌やウイルスを身体が体から除外しないといけないもの、いわゆる抗原と認識して、その抗原に特異的に結合する抗体を産生します。

抗原に抗体が結合することにより、白血球やその他の免疫反応がおきて細菌やウイルスを除外するということになります。インフルエンザウイルスの抗原の特異性は高く、A型H1N1でも変異をしたものは抗原性も変わります。

ワクチンの種類

●生ワクチン:病原性を弱めたウイルスや細菌等を接種して、それらが体内で増殖することで抗原抗体反応を活性化させ予防効果を発揮するワクチンで接種後に得られる免疫も強いです。

●不活性化ワクチン:大量に培養されたウイルスの感染予防に効く抗原を取り出して病原性を消失させたワクチン。

●トキソイド:その他毒素産生の強い菌を培養して、毒素を精製・無毒化したトキソイドもワクチンの分類に入れられています。

インフルエンザワクチンは、接種により病原性(インフルエンザの症状)は現れることがない不活化ワクチンです。その中でも感染予防に働く抗原を取り出して、発熱反応等の副反応が軽減されているので成分ワクチンとも言います。

ワクチンの種類

A型インフルエンザウイルスは変異をしますが、HAやNAの配列を変える通常の連続変異(小変異)と、HAやNAがまったく違う型に置き換わってしまう「不連続変異(大変異)」というものがあります。

この不連続変異したものを「新型」と呼び、ヒトは免疫が出来ていないので、世界的に大流行します。

○過去に世界的に大流行したA型インフルエンザウイルスの流行株と流行年度

通称名 流行代表株 流行開始の年
旧アジア型 H2N8(血清学的検査より推測) 1890?
旧香港型 H3N8(血清学的検査より推測) 1900?
スペイン型 H1N1(A/swine/Iowa/15/30) 1918
スペイン型 H1N1(A/PR/8/34) 1930
イタリア型 H1N1(A/FM/1/47) 1946
アジア型 H2N2(A/Singapore/1/57) 1957
香港型 H3N2(A/Hong Kong/1/68) 1968
ソ連型 H1N1(A/USSR/90/77) 1977

連続変異はシーズン中または、数年から数十年単位で流行が続きます。

季節性インフルエンザワクチンに含まれている抗原の種類については、毎年流行するであろう型を予測して、A型(H1N1)、A型(H3N2)、B型と3種類の混合ワクチンになっています。

季節性インフルエンザワクチン A/ブリスベン/59/2007(H1N1)株(Aソ連型)
A/ウルグアイ/716/2007(H3N2)株 (A香港型)
B/ブリスベン/60/2008株
新型インフルエンザワクチン(国産) A/カリフォルニア/7/2009(H1N1)

上記は今年の各ワクチンの株の組成です。

「1番目が最初のアルファベットがインフルエンザウイルスA~Cの型」、「2番目が分離された場所」、「3番目が分類された順番」、「4番目が分離された年度、A型の場合はカッコ内にHAとNAの型」であらわされます。

残念ながら、季節性インフルエンザワクチンのA/ブリスベン/59/2007(H1N1)と新型インフルエンザワクチン(国産) A/カリフォルニア/7/2009(H1N1)の抗原性は違います。ただ今回の新型インフルエンザウイルス(N1H1)の感染性が強いのは、免疫が出来ていないのが原因です。現在のウイルスの性質としては弱毒性です。

懸念されるとしたら、抗インフルエンザ薬に対して耐性が生じることです。

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